都市定型俳句
・戸と都市と トマトと 的と 鳥取トマト
・青大根 黄色ピーマン 赤信号
・烏龍茶 烏と龍と その下の都市
・忘れてよ 風のにおいも この街も
・どこからか どこどこどこどこ 音がする
黒い街
蜘蛛の巣のような水の膜
水の彫刻はあまりに痛々しく
風に揺れながら
主は朝の前でただ佇まう
主を失った町は
言葉を失い
記憶をなくして
緑が生い茂る
黒色の服は黒色の糸から作られるんだ。
と、誰かが言い遺した事を主は思い出した。
春
曖昧な世界の
輪郭が言葉を失って
昨日の夜の歌声の名残が
心の襞の奥底で泣いていた
もういいよって君が春らしく言うから
ただその余韻が忘れられなかった
なにもない
耳では決して聞こえない音と
目では決して見えない光と
手触り感のない絵の具のようなものを混ぜて
なんとも言い難いなんとも言えない何かを
描いたキャンバスの上で、
何か大切なことを忘れてしまったような感覚に陥って、
寂しいような、なんとも言えない感情に苛まれた。
闇の中の光の粒の群れ
重い闇に漂う蒼い蝶
日が昇り沈む前の
光を失う僅か前
空の色は黒く
蝶の羽は蒼
君は見た
雲は黒
月も
黒
煙と
黒い雨
人の命と
黒い雲の影
蝶は空を飛び
魚は海を泳ぐ夏
短い命を更に短く
黒い雨は長い夜の帳
闇の中の光の粒の群れ
memento mori
点滅する光。
点滅する命。
点滅する生。
点滅は止まった。
夏
幼さが奥の方に隠れて
風のにおいが恋しくなった
夏のはかなさには慣れた頃に
私たちはそれそのものであって
ただ、それとして生きていた
「ズワイガニ」の夢

気流の中を泳ぐ
足の長いズワイガニが
私の肩に止まる
そんな夢を見た
蜘蛛の巣
季節で彩りを変える木々
悠久の時を超えて輝く星々
一瞬のうちに現れ、消えゆく流星
蒼い石が積もったこの世界で
ぽっかりと空いた心の穴は
雨を絡めて輝く蜘蛛の巣に絡まっている。