黒い街

蜘蛛の巣のような水の膜
水の彫刻はあまりに痛々しく
風に揺れながら
主は朝の前でただ佇まう

主を失った町は
言葉を失い
記憶をなくして
緑が生い茂る

黒色の服は黒色の糸から作られるんだ。
と、誰かが言い遺した事を主は思い出した。

曖昧な世界の
輪郭が言葉を失って
昨日の夜の歌声の名残が
心の襞の奥底で泣いていた
もういいよって君が春らしく言うから
ただその余韻が忘れられなかった

なにもない

耳では決して聞こえない音と
目では決して見えない光と
手触り感のない絵の具のようなものを混ぜて
なんとも言い難いなんとも言えない何かを
描いたキャンバスの上で、
何か大切なことを忘れてしまったような感覚に陥って、
寂しいような、なんとも言えない感情に苛まれた。

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